世の中、質問に答えていないことがよくある

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自殺発生後の組織へのポストベンション、つまり介入をチームで行う時には「ストリー説明」というツールを我々は使う。
組織へのチーム介入の教育をしていて、ひと通りの座学説明が終わった後に、受講者から教育スタッフへ「スイマセン。『ストーリー説明』っていうのは『何』なんでしょうか? よくわからないのでもう一度教えて欲しいんですが。。」という質問がされていた。
ストーリー説明はなかなか一般に、概念や言葉としてまだまだ普及していないので、被教育者もとまどうことが多い。
今回出てきた質問は、よくあるものだ。

そこでのスタッフの対応としては「ストーリー説明って言うのはですね、、」から始まり「こういう風に情報を集めて、、」「こんなように心理学的に分析と考察を加えて、、」というような説明をしていた。
しかし、このときの対応や回答の目の付け所としては「ピントがずれていた」。
その状況についてだけ当てはまる見方であるのだけれども、質問をした受講者は「腑に落ちていなかった」。

こういったことは学習の場でも、日常でもよくある。
セミナーや講演発表などでも、質疑応答で演者のやり取りがずれているというようなことだ。

今回の質問では「何」という言葉を使っていたから、それに対応して「内容」を真面目に答えていた。
まったくの間違いではなかったのがさらに微妙な誤解が残ったままになった原因の一つだ。
ここでの質問者の「本当の意図」は「なぜ?」だったのだ。

「なぜストーリー説明をすると同僚の自殺が起きた組織の人たちは落ち着くのか?」という部分がうまくわかっていないという状態だった。
しかし、質問としては「何」という言葉を使ってしまっていたということだ。
こういうときにはその質問の背後や真意を理解していれば、「ほら、昨日まで普通に自分たちの隣で仕事をしていた人が、ある日自分で命を絶った、ということが起きたら『えっ、なんで!?』『信じられない』という気持ちになるでしょう。それでびっくりして落ち着かない。そんなときに必要なもの、ほしがるものは『コレコレこういう理由で自殺という結果になった可能性があると専門家の私たちには見えますよー』という理由の説明と解説なんです」という返答がまず適当ということになる。
その部分が飲み込めていないと、実際に現場でやることや標準的な手順を話しても質問者には「腑に落ちない」。

実際その場面では、講義の主担当がスーパーバイズ的に補足していた。

このように、質問に対して、本当に適切に対応していないということは世の中にたくさんある。
もちろん100点満点の回答が必ずできるというものでもない。
しかし、こういった質疑応答での「ズレ」というものを意識して敏感になることで教育ややり取りの質や相手の満足度というものは意外なほど良くなるものだ。

質問というのは、質問をする側にとっても、受ける側にとってもとても難しく奥の深いコミュニケーションだと思う。
だからこそ、エキサイティングだし、新しいアイデアや楽しい理解が生まれる場面でもある。

2011-09-05 09:00

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