ホームズ(Thomas H. HOLMES)とレイ(Richard H. RAHE)は、経験的にストレスをもたらすと考えられる出来事(ライフイベント)とその度合いを調べ、1967年に論文にしました。その内容は、日本で出版されたうつやメンタルヘルスに関する多くの一般書に引用されています。「配偶者の死や結婚、引っ越しなどの出来事ごとにストレスの大きさを数値で示す。本によっては1年分の数値を合計し、その大きさに応じて次の1年間の心身の不調を予測できる」というものです。引用が確かならば「配偶者の死」が100点、「結婚」が50点とされており、43個の項目が並べられているはずです。
残念ながら、それらは医学専門書や学術論文ではないため、適切に引用されているものがほとんどありません。「誰が」「いつ」なんという「論文名」で発表したかがわからないものばかりなので、読んだ人が興味を持ったり、オリジナルを検証しようとしても簡単ではありません。ただ幸いに、この論文や内容は複数の本に載っていますのでそれらを合わせて調べることによって原典を探すことができました。その情報は以下のようなものです。
The Social Readjustment Rating Scale
Thomas H. HOLMES and Richard H. RAHE
Journal of Psychosomatic Research, Vol. 11, pp. 213 to 218, 1967
Received 12 April 1967
Googleで「Holmes」+「Rahe」+「Social Readjustment Rating Scale」で検索すると以下のようになります。
論文を見ますと一般書に単純に引用されたストレス換算表の興味深い背景がわかります。そのいくつかは次のようなものです。
- (当然ですが)調査は1967年(よりも以前に)にアメリカで行われた
- 調査対象は394名
- 男性179名、女性215名
- 独身171名、既婚223名
- 白人363名、黒人19名、東洋人12名
- <宗教>プロテスタント241名、カトリック42名、ユダヤ教19名、その他45名、無宗教47名
- ストレスの程度はアンケートで、被験者が主観的に考えた対象項目間の相対的なものである
- この論文には点数を1年分合計して、その数値によって翌年の心身不調を予想することについての記述はない
このように原典をみると私には、上記のようなキャラクターの被験者数で、40年以上も前に外国でやられた調査ということを理解しないで借金の額やクリスマスに対する感じ方などの部分をうまく説明するのは難しいと思うのです。最後に挙げた点数の合計と不調の予想の部分についてはもう少し調べてみたい気がします。
おそらくですが、多くの本では一度どこかに引用されたものを、原典にあたらずに中途半端に再引用、孫引きしているのでしょう。もちろんそれイコール内容の間違いや文章としての価値が落ちることにはなりませんが、著者がメンタルヘルスやうつに関して説明や紹介をするのに依拠する過去の知見について実はよくわかっていないというのは、私には危うく不誠実に感じます。どうせ結論や印象が変わらないなら、根拠となるデータはどうでもいいではないかと言っていることにならないでしょうか。
最近の学術論文はWeb検索によって無料で要点や全文を読むことが可能であることが多くなってきましたが、この論文については1967年発表のやや古いものであるためか、そのような整備はされておらず、手に入れるには30ドルほどかかります。少し調べたところではこの原著論文から派生した論文や、連接した日本の研究もあるようですが、確認はこれからです。
今回言及した原著論文については入手して自分個人用として読み、翻訳しました。機会があり、翻訳権などの問題をクリアすれば公開できるのですが、それについては検討中です。
このホームズとレイのライフイベント表や論文に関連した情報やご意見があればコメントやTwitterなどでお知らせください。
2010-05-14 7a.m.
(追記 2010-05-15)
以下は ホームズ レイ – Google 検索 のうちこのエントリに関連するリンクです。
コメント
[…] ホームズとレイのライフイベントストレス表の不適切な引用 […]