うつが「誤った学習」をもたらす

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今回のエントリでは、人がうつ状態に関するトラブルにおいて誤った因果関係を学習してしまうしくみを説明する。

ここで言う「誤った因果関係」とはどんなものだろうか。

例えば、ある人がうつ状態にあったとしよう。
うつ状態は、その本人から見た世の中の見え方や日常の出来事に対しての反応や感じ方を変えてしまう。
周りのすべてが敵に見えてしまったり、失敗や悪い出来事の原因と責任が自分にあるように思えてしまう。
しかもちょっとやそっとのことではその考えを修正できないし、助言や助けを求めることもできなくなる。

こういった状態で、仕事で失敗をすると、「仕事が自分にあっていない」「自分に能力がない」「自分には誰も協力してくれない」と思い込む。
それが続き、うつ状態がさらに悪くなれば、「自分には生きている価値がない」とまで思えるという「症状」が出てくる。
ここでの問題は、一つ一つの失敗やトラブルが落ち込みの本当の原因なのではなく、先に陥っていたうつ状態が根本となっている結果だということだ。
しかし、本人の認識は違う。
これが「誤った因果関係」の学習だ。

さて、ここでなぜ「学習」してしまうのかを考えてみよう。
そのためには学習が発生する条件を知る必要がある。

ヒトが学習するために大事なことは、ルールとタイミングだ。
ルールとは原因と結果の関係性のことだ。
目の前でコップを倒して水がこぼれたならばその原因と結果は明白だ。
逆に地球の裏側で交通事故が起きたとしても、それが自分のせいだと思う人は普通いないだろう。

もう一つのタイミングに関しては意識することはとても少ない。
しかし重要だ。
例えば、先ほどの例と同じくコップを倒したとして、もしもの話として水がこぼれるのが1時間後だったとしたら、それらを関係していると感じられるだろうか。
それが1日後だったら? 1週間後だったら?
関係性を認識することは難しくなるし、現実として同じ場所でそれを見ている確率も少なくなり、そもそもこぼれた水のことを知らないかもしれない。

実はうつ状態はルールの見え方も歪めてしまう。
うつは非常事態、ピンチのときの対応プログラムだから、なるべく時間のかからない、単純な思考を選択しやすくなる。
すると複雑な関係性を認識できなくなる。
コップの載ったテーブルに他の人がぶつかったのではないか、地震が起きたのではないか、ヒビが入っていたのではないか、というような別のアイデアを浮かべることが本能的に禁止されいるのだ。

こうして「自分の周りにはいつも不幸なことが起きる」「自分は誰とも仲良くなれない」「自分は努力をしても上達しないし結果を出せない」という学習が進む。
この誤った学習がうつ状態をより悪くするし、うつ状態はますます、元々ある疲労や落ち込みと一つ一つの出来事との関係を見えにくくする。

これが「誤った因果関係の学習」のしくみだ。
こうした状態がじわじわ数ヶ月から数年という期間にわたって続いたうつ状態から、誤った学習を解消するためには大きな生活の変化や医療、心理カウンセリングなどのきっかけが必要になることが多い。

2011-11-15 07:00

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