「ポストベンション」とは、自殺や大事故が起きた後、その周囲の人たちや当事者たちを主に心理的な観点からケア・支援する活動のことです。「ポストベンション」という言葉自体には語源からしても上記のような意味は含まれていませんが、同じような概念を表す適当なものがありませんのでこのブログ内ではそのように定義して書きます。
自殺という出来事は家族や周囲の人に大きな影響をもたらします。その人自身が自殺したいというような考えにとらわれることがあったり、うつをわずらっていたり、あるいは災害に襲われるようなことを除けば、家族や親類、知人が自殺をしたということは、日本の現代社会において出会う可能性があるストレス現象のうちでも最大級のものでしょう。
洗練・整備された日本の社会では、核家族化、病院や介護施設などにおける死の外部化、都心部での小コミュニティの廃用などのために、人間の死というものを身近に実感を持って体験する機会が減っています。
銃器が規制されている、警察力が高い、救急医療が整備されているなどの理由によって、日常が安全であることは良いことなのですが、一方で個人やコミュニティがそれらに関連するトラブルなどからストレスを受けたときに、対応するためのノウハウを持っていることがまれとなっています。
同じように、まれもしくは少数となってしまった病気に対する免疫力が損なわれてしまうような利点と欠点が表裏一体となった話なのです。
自殺が起きたと仮定して、ポストベンションの活動内容をいくつか挙げます。
・ケア対象者が個人および集団として受けた影響をアンケートや面談を通して確認する
・自殺した人の社会的・心理的な背景をプライバシー等に配慮しながら確認する
・家族や組織の長または管理者などに今後ありうる中長期的影響の表れ方やそれへの対処についてアドバイスする
これらの中に、IES-R(出来事インパクト尺度改編版)、ディブリーフィング、自殺者の心理学的剖検などが含まれ、原則としてポストベンションを依頼してきた組織などのケアに役立つものを可能な限りフィードバックします。
日本全体でも世界的にも、様々な形式や手法の組み合わせで、自殺や事故後の個人・集団が受けるストレスや状態について研究や支援活動が行われています。
各種の学会等を含めて、心理的ディブリーフィングに関する議論やPTSD(心理的外傷後ストレス障害)の予測や予防・治療に関する研究・意見は数多くあります。
しかし少なくとも、自殺・事故後急性期については、一般的な心理カウンセリング手法だけで対応することは難しいでしょう。
そのため私は個人としてポストベンション周辺の実践的な知見やノウハウ、そして経験を増やしていこうと考えています。
私個人のポストベンション活動の経験はまだ数件に過ぎませんが、できる範囲で、また守秘的な問題のない範囲で今後エントリにしていく予定です。
2010-05-24 8a.m.
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