死にたい、死にたい、こうやって死のうと思っている、準備中だというクライアントへの対処

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とにかく「死にたい」「消えてしまいたい」ということを繰り返し話す、語りかけてくる、電話をしてくるという人にはどう対処したらいいのでしょうか?

そんな質問を自殺対策教育の場で受けたのだが、もう少しうまく、補足して答えれば良かったなと思い、まとめ直してみる。
このエントリが、その質問者に届く可能性はとても低い。
しかし、質問というのは多くの場合、その場にいた被教育者や一般の方が持っている疑問の平均値や最大公約数であるとも考えられるから、何かの役には立っていく。

自殺企図をしゃべり続けるクライアントへの接し方ととらえ方には3つのポイントがある。

時間をかける

まず時間という資源が絶対的に必要だ。
死にたいという気持ちを5分や10分聞いたところで、「ゴメンね。今日は忙しいから話を聞くのはここまででいいかな?」とは言いにくい。
かえって、最初から話を聞かない(聞けない)ことを明示した方が、その人とあなたの関係を悪い方向に変えないかもしれない。

時間の目安で言えば、ずっと同じトーンでクライアントが話すとは限らないとしても、2時間くらい聞く“覚悟”が欲しい。
私で言えば、毎日3時間、連続5日間、話を聞いていた(聞いてしまっていた)ケースもある。

死にたい気持ちを“本当に”理解する

時間をかける、とは言っても、ある人があるクライアントにかけられる資源には限りがある。
時間にしても、身体的・精神的エネルギーにしてもそうだ。
人ひとりが死ぬか、生きるか、という状況にあったとしても、現実問題として、コストを度外視することはできない。
関係性にもよるが、そこまで没入することはデメリットを大きくするし、続かない。

そこで、なぜ死にたい人が、死にたいことを際限なしに表現しているのかを考えてみよう。
もちろん、それ自体に意味があることは否定しない。
表現欲求を満たすことにはつながるはずだ。
しかし、数時間なりを、消えたい気持ちや自死の手段の説明や相談に使うクライアントの感覚の背景には何があるのだろうか。
「(目の前の人に)わかってもらいたいから」話すと考える。
そしてさらに仮説としては「話していても、わかってもらった感じがしていない」のではないか。
だから“話し続ける”、“同じことを何度も話す”、“話していてもスッキリしない”のだ。

この状態を解決するには、“本当に”理解するしかない。
“本当に”とは言っても、当人以上に理解するのは難しい。
その感覚を持ってもらえるような話の聞き方をするということだ。
それにはやはりある程度時間を使わなくてはいけない。
そして、怖がらず、不思議がらず、「死にたい」と考えてしまっていることは事実として、具体的に聞く。
いつから死にたいのか、一番最近死にたい気持ちが高まったのはいつなのか、そのとき身体がどんな感じになっていてどう対処しているのか、手段は用意しているのか。
クスリなどを溜め込んでいるとか、身辺整理をしているとか、飛び降りて死ねそうな場所の下見をしたことがあるとか、遺書やメモをしたためているとか。
そのような細かいことまでを聞いて初めて、クライアントに「わかってもらえた感」が生まれる。

(追記 2012-01-03 11:00)
悩んでいるクライアントに「どのくらい」苦しいのかを質問してもうまく答えることはできない。
考えたり言葉を探したりする負担をかけたり、「わかってもらえない」不安を強くするというデメリットが大きい。
時間経過に沿って、できるだけ順番に、事実を聞くだけでも必要十分なサポートになる。
(追記ここまで)

仲間や管理者、専門家と状況を共有する

時間をかける、細部まで話を聞く、というのはできそうでできない。
そこには慣れや若干以上のテクニックがないといけない。
その部分をカバーするのは、チームワークや専門家の能力だ。

人ひとりの「死にたい」気持ちを本当にうまく支えようと思ったら、当然膨大なエネルギーが必要になる。
そして、それは結構な長期に調達しなくてはいけない。
しかし、いつかの時点では当人がそのエネルギーを生み出し始めるはずなので、そこまでの辛抱ということになる。

そのためには、一つには複数人で対処にあたる、というのがいい。
交代や複数で別の時間に話を聞く分担をする、直接に話しを聞く人は一人だとしても、その対処している最前線の人を周りがサポートする、もしものときの覚悟は繰り返し周囲の人同士で共有しておくなどだ。

もう一つは、カウンセラーや医師などの専門家に任せられる部分は任せてしまうこと。
専門家は、ある程度はドライに時間とコストをコントロールしてくれる(カウンセリングなどにはお金がかかるという現実)。
話を聞くテクニック、慣れと勇気を持って細かい部分まで聞く経験、責任の範囲と取り方のバランス感覚などを持っている。

まとめ

死にたい気持ちという、一見普通の感覚では理解しにくいものをとらえるには、いくつかのポイントがある。
それは、知っている人から聞いてしまう方が手っ取り早い。
ただし、その後にあなた自身の現場に合わせたアレンジは必要だ。

今回書いたポイントは裏を返せば「やるべからず」の項目ともなる。
時間をかけないで慌てた対処や対応はマイナスになる。
話の表面だけを、距離感を取り過ぎて聞き続けていても目の前のクライアントは「納得」しないし、できない。
専門家や仲間など、使える資源を探さずに、少数あるいは一人で自殺企図を持つ人を支え、抱えてしまうことの危険を知っておくべきでもある。

2011-07-22 08:00

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