惨事や災害の現場に出動した支援者に対するメンタルサポートの手法としてグループミーティングつまり仲間内での相互ケアがある。
現場での活動に区切りがついたタイミングで、管理者の指揮系統に基づく統制の上、活動単位グループを基本にした少人数でその活動についての振り返りを行う。
一般に「チームによる組織的な活動」であれば、活動の報告や活動中の問題に対する原因と責任の追及、さらにはその対策の検討などを必ず行なうだろう。
しかしここで説明する「グループミーティング」は、特に心理的なストレスや疲労の確認と軽減を目的としている。
ミーティングの実際のやり方とは別として、「組織としての活動に対する検証(ガバナンス的な要素)」と「所属する個人への配慮、人的資源の維持や回復(ケア的な要素)」の区分をトップや経営者・管理者が理解し、現場でもごちゃまぜにせずに時間や場の設定を明確に分けなくてはいけない。
この手法は、陸上自衛隊や東京消防庁の現場に導入されており、柔軟に改変・運用されている。
組織により「解除ミーティング」や「1次ミーティング」などと異なる名前で呼ばれている。
グループミーティングの概略
- 時間:20分間くらいを限度、目安にする。現場の人員が、グループミーティングをすることによって感じざるをえない負担や面倒を最小限にしバランスを配慮しなくては継続的に実施し習慣化することは難しい。本来の任務や業務に多大な差し支えがあっては本末転倒である。終礼を少人数で業務単位でやるようなイメージから導入するのも良い
- 人数:数人からせいぜい10人くらいまで。後述するように、各個人に発言するチャンスをキチンと与えることや、ミーティングを統制する者が参加者個々を十分に把握して注意を払える、目を配ることができる必要がある。必然的に一度に参加できる人数には限界がある
- 1つめの目的は、その活動で各個人が行った業務や作業を発表して、その事実や情報を仲間内で共有することである
- 2つめの目的は、それぞれが活動中に感じたことやミーティングをしているその時感じていることを表現したい範囲で強制されずに、素直に表現し、互いに知ることである
- 3つめの目的は、参加者の中に特に弱っていたり、不安や問題を抱えている者がいないかのスクリーニングである
グループミーティングが有益である背景や理由
- 惨事や災害での活動は過酷で、危険を伴うものだが、その成果が正当に評価されないこともありうる。また、たとえ良い評価をされたとしてもそれによって支援者が満足したり、自己評価の向上にそのままつながったりするとは限らない。与えられた状況・環境において、客観的かつ冷静に考えて、可能な限り最高の成果を挙げた場合でも、そのことがプラスを増やしたのではなく、マイナスを減らしただけであることが多いのが惨事や災害の特徴だからである
- 上述のような無力感や、自分たちの実力が不足しているように感じることに伴う自責感を軽減するのには、組織外・部外からの正当な評価だけでなく、正に現場を共にした仲間 peer 同士での確認・評価という作業が有効である
- 個人個人が互いの作業成果を知らせ合い、認め合うことや、現場や活動についての情報を指揮系統を通じて適切に伝えることは、管理がうまくされているならば、不平不満、不公平感の軽減や疑心暗鬼の解消に役立つ
- チームとしての連帯感や組織への帰属意識を強化、再認識することにつながる。苦労を分かち合う、組織が一人一人を大事にしているということを明確に示すことになる。言わなくても分かるだろうとか、当たり前だとかいう風に考えがちだが、危機的緊張を伴う状況でこそ意識的かつ適切に管理されなくてはならない
《参考》
“4章で紹介された消防職員の全国調査(消防職員の現場活動に係るストレス対策研究会,2003)でも、グループミーティングへの参加者は参加した感想として,「同僚の話が参考になった」(63%)を最も多くあげていた”
– 惨事ストレスへのケア、松井豊編著、ブレーン出版、2005、p.157-158
考察、注意することなど
- 強度の心理的反応や疲労を示すメンバーについては、判明した時点で対応を検討したり、専門家チームと連携したりしていくべきである。ただし、専門家チームがすべてのメンバーに広く浅くケアや対応を提供するのは、資源の有効活用の面で不利であるため、仲間(ピア peer)という単位を活用する。グループミーティングが持つ「現場で」「軽易に」「仲間同士で」という特徴から期待される効果が、応急処置的なものであることは確かだが、救急医療と同じく、段階を区切って線引きをして資源を有効に使うことは当然とも言える
- 業務上の責任や原因の追求・報告と、グループミーティング内で話されることとの間には一線を引くことは最初にも述べた。「グループミーティングで出た個人的な事実や内心などはそのグループ内だけの秘密とする」ことは重要である。ミーティングのないように関する報告や記録はしないことを原則とする。その約束があってこそ、メンバーのリラックスや本当の気持ちや事実を一人一人が提供できる
- この点については、服務規律や組織倫理を守ることとは別の次元のことであり、組織所属者に対する安全管理として、管理者の理解、そしてある種の覚悟が必要である
- グループミーティングを有効活用するためには、平常からの練習が必須である。たいていの人間や組織は、ピンチになってからまったく知らない新しいことを導入するリスクを取るのが難しい。抜本的な変更や対策をするのは、最初期段階もしくは平常であるべきである。追いつめられて最後の奥の手として、新しい大きな変化を強いるような対応をするのは得策ではない。またグループミーティング自体、どんなストレスや負荷でも魔法のように軽減したり解決したりできる万能の手法という訳ではない
2011-03-27 11:00
(参考文献)
※本書を出版していた「ブレーン出版」は「おうふう」に統合されたようだ
コメント