カウンセラーはセクシャルハラスメント(セクハラ)の被害者が助けを求めて最初に駆け込む場所になることもあります。
もちろんその相談が展開していって民事裁判等にまでなる場合には適当な時点で法的知識が十分にある専門家などの支援が加わることはあるでしょう。
このとき心理カウンセリングという視点からすべき注意や配慮があります。
社会的関心が高まったり、法整備がされたりしてセクハラに限らず様々なハラスメントが表面化してくることが増えました。
これらはその存在がいつからあるのかハッキリしなかったり、加害者と被害者の力関係に元々差があったりすることがほとんどです。
ですから何かしら建設的、前向きな対処をクライアントと考え、実行するよりも先に、心理的ケアをしなければいけない場合が多くあります。
セクハラの訴えへの対応を順に考えていきます。
1 事実の確認
まず事実を確認しなければいけません。クライアントの話を聞くという点では通常のカウンセリングと同じです。ただしクライアントの心情に配慮しながらも、味方になってからは、相当詳細な事実の確認をすることになります。
言葉や文章、メールなどによるセクハラであれば、いつ、どんな言葉で、どんな口調や文面で、周りの状況はどうであったのかなどを聞かなくてはいけません。
ボディタッチや暴力を含むような場合、「実際にどんな感じでその行為がされたのか」をカウンセラーと一緒に再現するくらいの細かさが必要かもしれません。
この事実確認によってクライアントが却って心理的に二次的受傷をすることがありえます。ここでは救急の医療のように、まず全体の安全や安心を確保した方が良いのか、各論のテーマ・問題に取り組んだ方がいいのかを見極めることになります。
また明らかに刑法を犯すような行為と違い、どこからをセクハラと認識するかについては個人差や所属するコミュニティごとの差やクライアントの置かれた心身の状態が関係してきますから、それも含めて認識を近づけなければいけません。
結局事実確認があいまいなままではカウンセリングとしても、その後に具体的なアクションを考えていくにしても味方にはなれません。
「セクハラのような気がするんです、、」という段階から相談が始まることもありますが、それこそその後に話がどう展開していくかはわからないものです。
2 それまでの対処行動の確認
クライアントがセクハラを受けていると感じているとして、それまでにどんな対応をしてきたかも聞かなくてはいけません。
ある行為や状態に対してクライアントが自分の被害や嫌である気持ちを表明したかどうか、相手に伝わったかどうか、どんな反応であったかなどの確認です。
加害者がクライアント(被害者)の気持ちにまったく気付いていないということは良くあります。それによってセクハラが認定されなくなるとか、正当化されるというわけではありませんが、事実確認の延長として、あるいはクライアントが独力でもできることを可能な限り模索しておくことは重要です。
この過去の対処の確認で注意することは「なぜそうしなかったの?」とか「キチンと伝えるべきだ」というようにカウンセラーがクライアントを攻撃してしまうことにならないようにということです。
クライアントが責められているように感じるか否かはカウンセラーの言葉や内容にも拠りますが、一番にはカウンセラーがクライアントの味方になっているかどうか、質問や事実確認の目的をうまく説明して納得してもらえているかが総合的に影響します。
3 今後の対応のシミュレーション
事実を確認し、これまでのクライアントの対応や努力を聞き取り、味方になりそうだと認めてもらえたら、やっと前向きな、未来方向への検討に入る準備ができたことになります。
クライアントがまだ自分の気持ちを表現していないのであればそうすることを考えてみる、それで相手が本気に捉えていないならもっと強い行動に出てみる、周囲の人がいればその中に味方になってもらえる、または利用できそうな人はいないかなどを一緒に考えます。
法律や規則などの専門性が高くなりそうな部分については専門家を紹介したりカウンセラーからリファーしましょう。
さらには、加害者に自分の気持ちを訴えたい、会社などの組織を相手にして異義を申し立てたい、あるいは訴訟のようにして公に争いたい、などのクライアントの希望があれば、もしもそうした場合の起こりうることを味方として考えます。
結果としてクライアントがするかしないかはまずは別にして、セクハラへの対応がさらなるトラブルやクライアントの損害を招かないかどうか、それを了解してでも行動したいかどうか、できるかどうか、現実的かどうかを安全な場として検討する場にします。
まとめ
セクハラは一般的にイメージされる悩みと違い、何が問題なのかが比較的明らかなように一見思えます。特にクライアントがセクハラという概念を頭にすでに持っている場合は最初から焦点が狭くなりやすいでしょう。しかし、今回書いたように段階を考えながら確認と検討をしていくことによって、実際はクライアントが漠然とした不安や被害を感じているのかもしれないという場合や、行為と環境両方が原因となっていてそこまでクライアントが認識していない深刻なケースなどに適切に対応しやすくなります。
セクハラは内容が感情という個人差があったり外からはわかりにくいものに関連しているということ、「恥」や「プライベート」という私的な関係と「会社や組織での人間関係」という公的なものの境界に起こることから、知識を持たないクライアントが単独で調べたり行動を決めたりすることに大きな不安を持ちやすいという特徴があります。
繰り返しますが、相談のすべての段階においてクライアントに対してカウンセラーが二次受傷を加えることに注意・配慮しなければいけません。「ああ、それは法務や法律家に話した方がいいですね」という対応も状況によっては「攻撃」になりうるのでしょう。
付記
特にセクハラに関する相談について書いたのですが、実はテーマが違っていてもあまり変える部分はほとんどありません。セクハラというテーマについて意識しすぎず、でもその特性には配慮するバランス感覚があればいいのかもしれません。
2010-05-18 8a.m.
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