組織がうつリハビリ者に「完全に治ってからの復帰」を求めるのは行政の指導上も誤り

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うつのリハビリについて先日、質問、というか情報があった。
最近の企業等組織ではうつによる休暇や病休、休職の後の復帰・復職、つまりリハビリには、本人が休む前と同じように勤務できることを条件としているという。
しかもそれは厚生労働行政、あるいは労働安全衛生の権威からの指導を受けてのものだと。
結果として、カウンセラーなどが復帰やリハビリをサポートしようとしても、環境を調整することが難しいという意見があった。

うつで医療的に診断を受け業務を休んでから、復帰するのにはまず担当医の診断、つまり許可が出ることになる。
通常、その時点で本人はまだいわゆる「以前の」パフォーマンスを出せる状態ではない。
そこで、社会、職場という環境での慣らしやリハビリをしていくことになるのだが、上記のように企業等組織から「完全に治ってから」戻るようにという対応をされると事実上、当事者の行き場がなく、宙ぶらりんになる。
休むことに専念してきて、次の段階としては、徐々に日常の負荷の中に戻っていかなくてはいけないが、その場を自身や家庭、プライベートで用意することは難しい。

そのような現場が今どき実際にあり、それが行政などの指導を元にしているとはちょっと信じられなかったので調べてみた。

現時点の結論としては、たまたまその企業組織のリハビリに関しての考えや計画の解釈が誤っているのだと推測する。

今後も情報を取っていくが、このエントリでは最初に得た情報が生まれた経緯の推測だけ書いておく。

■厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成21年改訂)を読む

厚生労働省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」というものを平成16年に出し、平成21年3月に改訂している。

厚生労働省:「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の改訂について

www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei28/dl/01.pdf
(別添PDFへのリンク)

比較はしていないが、うつというものへの理解が進んだことと社会などからの要望として、リハビリ・復帰に関してより細かに記述されるようになっているのではないかと思う。

その内容のうち「6−(2)職場復帰可否の判断基準」の部分の解釈の違いが「以前と同じように働けるようになってから復帰してくれ」という判断や指示につながっているのかもしれない。
その部分を引用する。

 職場復帰可否について定型的な判断基準を示すことは困難であり、個々のケースに応じて総合的な判断を行わなければならない。労働者の業務遂行能力が職場復帰時には未だ病前のレベルまでは完全に改善していないことも考慮した上で、職場の受け入れ制度や態勢と組み合わせながら判断する。
 職場復帰判断基準の例として、労働者が職場復帰に対して十分な意欲を示し、通勤時間帯に一人で安全に通勤ができること、会社が設定している勤務日に勤務時間の就労が継続して可能であること、業務に必要な作業(読書、コンピュータ作業、軽度の運動等)をこなすことができること、作業等による疲労が翌日までに十分回復していること等の他、適切な睡眠覚醒リズムが整っていること、昼間の眠気がないこと、業務遂行に必要な注意力・集中力が回復していること等が挙げられよう。

– 「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き 」(平成21年3月改訂より)

1文めはしごく妥当なことが書いてある。
リハビリの判断基準に画一的なものはない、といううつやメンタルヘルスに携わる人間から見れば当たり前のこと、そして企業等の人事や労務担当も現場として理解し動くときの前提である。

しかし2文めをそれ単独で読んでしまうと、あたかも羅列した項目の内容が必須の条件のように見えてしまう危険がある。
「例として」と断ってはいるが、一つ一つはまさに「健康な時と同じレベルのパフォーマンス」が記されている。
これを復帰の条件としたならば、その「健康な時と同じレベルのパフォーマンス」を復帰の1日目から要求されることになる。
事実上、社会の中でのリハビリが不可能になる。
かと言って、現実にリハビリのための施設や仕組み、補償を社会や行政が用意しているということもない。
先に書いたように、それを個人が準備することもとても難しい。

2文めの意味として、「例」なのだし、「個々のケースに応じて総合的な判断」することを推奨しているのだから、「会社が設定している勤務日に勤務時間の就労が継続して可能であること」であれば、「会社と連絡をとり合って1日1〜2時間の勤務から開始する」でも良いだろう。
また、「昼間の眠気がないこと」というのは「眠気が直接業務に強くは影響しないような勤務環境を整える」ことで許容できるかもしれない。

文章を文脈に沿ってきちんと読み、解釈すればそういうことになる。
なにしろ先に書いてある内容のほうが主たるものであるのが文章のルールだ。
続く文は書いてあるとおり、例または例外についての記述と理解するのが適切だろう。

■まとめ

政府行政はうつ等のリハビリについて、企業等が当事者に「治ってから復帰するように」という対応や調整をすることを指導してはいない。

■付記

今後も関連情報に関心を持って集めていく。

2011-11-25 12:00

(関連URL 追記 2011-11-27 04:00)

安全衛生情報センター : 改訂版「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の送付について

Return 改訂・心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き : 手引・冊子・パンフレット|事業者、上司・同僚の方へ|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト(自殺対策を含む)(PDF)

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