うつの症状は憶えなくちゃいけない、説明できなくちゃならない

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我々がうつの症状としてとらえ、整理して、教えているものには10項目ある。
教育やトレーニングに参加した人ならばわかると思うが「5+5(ご、ぷらす、ご)」と言っているものだ。

《身体面》
不眠、食欲不振、疲労感、思考停止、不定愁訴(あらゆる身体不調)

《精神面》
自責感、無力感、不安・焦り・後悔、対人恐怖、自殺念慮

カウンセリングの現場を上手に扱える実践力を鍛えようとしているし、実技・実習を重視していることを強調しているのに、「暗記してくださいね!」と言われると違和感があるだろう。
今さら受験勉強みたいな丸暗記が必要なのか? というような嫌悪感や脊髄反射的な抵抗を感じる人も多いかもしれない。

この「症状を憶えましょう」ということについては理解しておくといい背景が2つある。
一つはこれらの症状のとらえ方は「切り口」に過ぎないこと、もう一つは「憶えただけではダメ」ということだ。

「切り口」について

症状が10個あると言っても、これらは実は厳密なものではない。
不眠の表現型で言っても人それぞれ違う。
寝付けない人がいれば、夜中に何度も起きてしまう人もいる。
一晩中眠れてはいるものの浅いもので疲れを取るのにつながっていないこともある。
そういうことだ。
必ずしも食欲不振ばかりでなく、大食いになってしまうということは良く聞く。
自責感や自殺企図なども表し方、現れ方が人それぞれだから、「この言葉が出たらば自責がある」とか「死にたいとは言っていないからOK」ではない。

あくまで10個の症状「5+5」と言っているのは、これを目安にしてクライアントの話を聞けば、ブレにくい、迷いにくい、うつ状態やうつ的思考に気づきやすいということだ。
熱が何度あるとか、検査でいくつの値が出たとかいうディジタルなものではないからあいまいにとらえるしかない。
しかし、手がかりや物差しがまったくないのでは現実問題として扱いにくい。
そこで「5+5」のような内容を「ツール」として用意している。

あくまで「ツール」だから、人によっては使いにくく感じるかもしれない。
10個の内、何個あったらうつだと“判断”するものでもない。

学術的な背景はないが、このツールは現場で使われ磨かれ育ってきたものだ。
元々他に“ツール”を持っているのならばそれらと併せて、あるいは部分的に入れ替えて使ってみればいい。
初級者であれば、とりあえず身につけてみよう。

症状を「憶えただけではダメ」

「ツール」という解釈は、紙に書かれたり、教わったりした項目を単に暗記すればいいというのではないということにも通じる。
ツール、というからには使えなくては意味が無いのだ。
どんなに切れる包丁でも使い手次第でできる料理の種類や出来は異なる。
できれば何種類かの包丁を場合によって使い分けたほうがいいだろう。
そういうことだ。

カウンセリングをトレーニングする上で実践を目指しているということは、症状について言えば、クライアントやその周囲の人に「分かりやすく説明できなくてはいけない」ということになる。
クライアントに「不眠はありませんか?」とチェックシートそのままに確認するというのではなく、「朝起きても休んだ感じがしないということはないですか?」とか「寝付けないから怖いとか、アルコールが欠かせないということが増えたりしてませんか?」というようなクライアントの生活や人生に配慮した尋ね方をするべきだ。
10項目を確認するだけが最大唯一の目標ならば、紙に書いてクライアントに渡してチェックでもしてもらえば済む。
そうしないことがプロでありかつサービスとしてのカウンセリングの売りの一つだ。

まとめ

教え方や内容が「現場」から生まれ育ってきていると書いた。
これはどういう事かというと、「学びやすく、教えやすい」ということだ。
少なくともその両方の最大公約数的なものになっているという自信と実績がある。
科学的に厳密で正しいとされていても、現場で使えなかったり、クライアントに受け入れられるアレンジができなかったり許されなかったりしては本末転倒だ。
いくら憶えやすいといっても独りよがりの道具ではプロとして不十分になるし連携もしにくい。

「現場」あるいは「道具」という喩えと性質から言うと、これらは知識として持っているだけではなく繰り返し使って自分の手足のように扱える域を目指さなくてはいけない。
また、一度身につけてしまえばもう一生ものとしてメンテナンスをしなくていいというものでもない。
社会やそこにいるクライアントの変化に合わせて変化・進化していかなくてはいけない。
症状の項目や表現は変わってきたし、これからもドンドンと変わっていくだろう。
それが「現場」であり「道具」であり、「実践」ということだ。

2011-08-06 08:00

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