カウンセリングに同意書は必要か

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ご多分にもれず、心理カウンセリングの業界でも、説明や同意、契約といった仕組みや制約は半ば不可欠なものと見なされることが増えている。
これらは、人間が人間を支援するのに、本当に必要なものかと言ったら違うわけだが、世の中のトレンドとしてはそうなってきているということだ。

こうした同意や契約のはまず、「カウンセラーは原則としてクライアントと話した内容を他の誰にもしゃべらず秘密を守る《守秘義務》」という約束から始まっている。
この約束があるからこそ、ほぼすべてのカウンセリングは成立し成果を期待できると言える。

だがそこに例外として、「クライアント自身やその周囲に緊急の危険や害悪が明らかに迫っていると判断したときには守秘義務を守らない場合がありうる」という取り決めが乗っかってくる。
そしてそのことを明確にするために、カウンセラー-クライアント間で同意書をかわすというのが流れの一つだ。
考えてみれば、建て増しを重ねたようなやや複雑で不安定な面のある話だ。

しかし私は、原則としてこのような同意書は不要だと思う。
同意書が有用、有効な場面は極端に少ない。
それがないことによるリスクは、別の仕組みややり方でカバーするほうが妥当だし、本来の目的であるカウンセリングの有益性を損ねないからだ。

同意書が「あると助かる」場面というのは次のような条件が揃ったときだ。

  • クライアントに「死にたいと考えるくらい苦しくて辛い」とか「許されないかもしれないが非常の手段を取ってしまおうかと思っている」などの本人または周辺に対する危機が認められる
  • 上記の状態について、カウンセラーが話を聞く以上の支援や介入、危機に対する予防やその情報を組織や警察などに知らせることをクライアントが拒否している

この危機は、重大だが、可能性としてはかなり限定的であって、このリスクをコントロールするためにすべてのカウンセリングケースで同意書を利用することは費用対効果が悪い。
また、「あると助かる」と書いた「助かる」の利益を得るのが誰かと言えば、まずもちろんクライアントではあるのだが、もう半分はカウンセラー側である。
カウンセラーが「楽をして」「安全でいるため」にどこまでリスクを減らすかはやはり全体のバランスをよく見なくてはいけない。

また、極論ではあるが、明確な同意を確認していなくて、つまり守秘義務を例外とする状況に関する同意書がない場合に、カウンセラーが秘密を守らず(守れず)何処かへ通報したり、連携したとしたら、あとは個別のケースとしてクライアント間あるいは民事契約上の問題として扱っていけばいいとも思う。
そう考えておくということも、リスクをゼロするという考え方でない分、健全ではないか。

今回考えていることは、あくまでカウンセラー個人があるクライアントを支援する場合の、限定的なシミュレーションだ。
組織や団体として、可能な限り一律の決まりや質でカウンセリングを提供するというのであれば、また全体の費用対効果とリスクコントロールは違ってくる。
また、単なる個別セッションなのか、継続していくケースなのか、惨事後のファーストエイド的面談なのかということも実際には考慮するべきだろう。

決して、現状のトレンドがベストということではないし、「同意書は不要」とする私の意見が常に適切ということでもない。

2012-05-21 07:00

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